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仙台高等裁判所秋田支部 昭和45年(う)48号 判決

被告人 小南繁信

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人皆川泉作成名義の控訴趣意書および控訴趣意補充申出と題する書面に記載されたとおりであるから、いずれもここに引用する。

一、宅地建物取引業法違反被告事件について

論旨は、原判決はその第一事実において、被告人が宅地建物取引業の免許を受けないで一三回に亘り宅地の売買又はその媒介をなし宅地建物取引業を営んだことを認定したが、被告人は売主の代理人もしくは仲介人に付添ったのみで、本件各売買の当事者又は媒介者として行為したことはないから、本件につき無罪であるに拘らず、これを有罪とした原判決は証拠の評価を誤り判決に影響を及ぼすこと明らかな事実誤認を犯した、というのである。

(一)  そこで、まず原判示第一別表記載の各売買ないしその媒介の事実の存否をみるのに、原判決挙示の対応証拠によると右別表記載の各事実中

(イ)  まず、1ないし4および10ないし12の事実については、被告人は、かねて鶴岡市大字島字道西一六番に田地約一、三〇〇坪を所有していた斎藤甚吉がその所有地を宅地として造成したうえ一部を処分し、売却代金でアパートを建築したいとの意図を有していたことを知るや、昭和三九年六月一〇日ころ、右斎藤との間で右土地のうち二〇〇坪を残してその余の部分を被告人の手で売却し、その代金のうちから二〇〇万円を現金で斎藤に支払い、六〇〇万円で右二〇〇坪の土地上にアパート二棟を右斎藤のため建築することを被告人が請負う旨を内容とする契約を締結し(原裁判所昭和四二年押第七号の五の契約書中土佐内浩一は単に名義だけのものであること斎藤甚吉の司法警察員に対する昭和四〇年一〇月二七日付供述調書、原審証人土佐内浩一の証言により明らかである。)、結局被告人は残余の約一、一〇〇坪の土地について、所有者たる斎藤甚吉から売却に関する一切の権限を包括的に委任されたものと認められるところ、被告人は右土地を売却するため、宅地建物取引業者である佐藤善吉らに依頼し、もしくは自己において買主を探した結果、原判決別表1ないし4および10ないし12記載のとおり斎藤甚吉と原斉ほか五名との間に、それぞれ右土地を被告人側で宅地化したうえで売買する旨の契約(但し、2、12については自己を売主とする)を成立させ、各買主のため、所有権移転の本登記ないし県知事の許可を条件とする所有権移転の仮登記を経由させたもので、右各売買契約に至る経緯は必ずしも一様ではないが、被告人は佐藤善吉らに買主を探すべく依頼していた場合でも、右佐藤らに売買の交渉および契約に関する手続を委せることなく、被告人じしんが斎藤甚吉から右土地を買い受けたとか、土地の売却に関する一切の権限を委せられている旨申向けて、個々に相手方と交渉し、売買の条件を取り決め、契約書を起案する等して契約の成立に尽力していることが認められる。

そして、宅地建物取引業法二条二号所定の売買の媒介とは、売買当事者の少くとも一方の依頼を受け、当事者の間にあって契約の成立をあっせんするすべての行為を指称し、他に売買を媒介する宅地建物取引業者が介在する場合でも、右取引業者と共同して、又はこれと別個に契約の成立をあっせんする者の行為はひとしく右にいう売買の媒介と解するに妨げないが、被告人は本件各売買に関し、斎藤甚吉から包括的に代理権を与えられていたこと前示のとおりであるから、被告人の前記所為はすべて代理人としての所為にほかならず、売買の媒介というよりはむしろ同条項の売買の代理というべきであるけれども、代理と媒介は、いずれも当事者の一方又は双方の依頼を受けて契約の成立に尽力するものである点において共通であり、ただ前者がいずれか一方当事者の側に立ち、その行為の私法上の効果がその当事者に及ぶものとされるに反し、後者は当事者の間に介在して事実行為をするに止まり、なんら当事者に対し私法上の効果を生じないものであるところ両者は宅地建物取引業法上は同一構成要件の内部における態様の差異に過ぎず、かかる態様の差異は同条項の禁止の趣旨からすれば、重要な差異とはいえないから、被告人の右所為が売買の媒介ではなく代理と認定すべきであるとしてもその誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないのである。

(ロ)  次に別表5ないし9および13の事実については、かねて秋山与一郎が森利恵から同人所有の鶴岡市大字日枝字道上一七番田約三〇〇坪を代金二〇五万円で買い受ける契約を結んでいたが代金の支払が思うにまかせないところから、森の希望で右売買契約を合意解除し、原判示別表5記載のとおり、昭和四〇年二月下旬、あらたに秋山のほか渡部勝蔵、加藤徳松および被告人の四名が共同買主となり、森との間で売買契約が成立するに至ったこと、そして被告人らは共同して右土地を宅地として転売することにより利益を得ることを目的としており、買受後直ちに買主を探した結果、秋山らの手によって原判示別表6ないし9および13記載のとおり西村一太郎ほか四名に区分けして売り渡したこと、および右土地の一部は被告人の共犯者らの手によって埋め立てて宅地化し、その余は斎藤英雄ら買主の手によって埋め立てて宅地化されたことがそれぞれ明らかである。そして、とくに被告人は秋山に対しかねて右5の土地購入資金四〇万円を貸与していた事情もあって、貸金の回収と転売による利益を企図し、前記5の共同買主となったこと前記のように認定し得られる以上、前記6ないし9および13の各売買契約書に売主として被告人が表示されておらず、かつ契約の際立ち会ったことがなく、登記も森から各買主に直接移転する形式がとられていたとしても、被告人が売買の当事者でなかったということはできない。

そして、宅地建物取引業法二条一号(但し昭和三九年法律一六六号による改正前のもの)の宅地すなわち建物の敷地に供せられる土地とは、その土地が登記上宅地として登記されている場合および土地の現状が建物の敷地として適当な程度に宅地化されている場合はもちろん、登記および現状のいかんを問わず、売買又は貸借の当事者において、取引の当時、その土地を建物の敷地として利用し、又は他に利用させる目的の存する場合をも包含すると解される。これを本件についてみるのに、右各土地はいずれも当時登記簿上田地であり、その一部は売買当時なお宅地化されていなかったと認められるにしても、被告人をも含めた各取引の関係者は、これら土地をいずれも宅地として利用し、又は他に利用させる目的を有していたこと前認定のとおりであるから、右各土地が同法二条一号の宅地に該当することは明らかである。

(二)  次に被告人の前記各行為が業としてなされたものであるか否かについて検討するに、被告人の前記各所為は単に売買当事者に対する情誼や自己利用の目的に出たものとは異なり、いずれも転売利益の取得等営利を目的として反覆的になされたもので記録上当時他にも同種行為の存在が認められることと相まってすでに業態としての実質を備える程度に至ったものということができるに拘らず、被告人は特定郵便局長という地位にあって、本件各犯行当時宅地建物取引業法による登録および免許のいずれも有しなかったこと記録上明らかであるから、結局被告人は前記別表1ないし9の所為については、昭和三九年法律第一六六号宅地建物取引業法の一部を改正する法律付則第一項による改正前の宅地建物取引業法一二条一項、二四条二号に該当する無登録罪の、同10ないし13の所為については改正後の同法同条項に該当するいわゆる無免許罪の責任を免れないが、右各無登録罪および各無免許罪はいずれも宅地建物取引業を営むという一連の違反行為を内容とし、講学上いわゆる営業犯とされるもので、このように法改正の前後を通じて営業的に反覆された行為を法改正により二個の営業犯に分断して評価することはできないから、結局右各罪は改正の前後を通じ全体を包括一罪として処断すべきものであり、同法二四条二号は改正の前後を通じ法定刑が同一であるから、原判決がその全部について改正後の法律を適用したことは、結局判決に影響を及ぼすべき法令違反とはいえない。

二、有価証券偽造等被告事件について

論旨は、原判決挙示の証拠によっては、原判示事実を認定するに充分でないというのであるが、原判決挙示の証拠を綜合すれば原判示第二の事実はすべて認定するに充分である。すなわち、(証拠略)を綜合すると、被告人はかねて土地の埋立を請負わせていた佐藤寛から昭和四〇年九月ごろより土地埋立代金四万円を請求されていたところ、同月一三日ころ、再び同人から手形による支払でも良いからと強く請求されるにおよんで、原判示第二のとおり渡部勝蔵を振出人とする金額四万円の約束手形を作成し、これを佐藤寛に土地埋立代金の支払に代えて交付したことが明らかである。被告人は原審公判廷において右約束手形の作成に関し、渡部勝蔵の事前の承諾があったと主張し、被告人の前記各供述調書は右主張に沿うものであるが、渡部勝蔵の原審第一一回公判期日における供述および検察官に対する供述調書二通によると同人が被告人から事前に承諾を求められた事実は存しないことが明らかである。もっとも押収にかかる借用証書(前同押号の七)によると、被告人は昭和四〇年二月一一日渡部勝蔵に対し、金一〇万円を弁済期同年一〇月三〇日と定めて貸し付けたが、その際、被告人において右弁済期以前に渡部の名義で約束手形を振り出すことにつき、渡部が承諾したかの如き記載があり、右記載が借用証書作成の際に記載されたものであるとすれば、被告人主張の事実が認められることになるけれども、もともと金銭消費貸借の契約において手形の振出につきかかる特約の存するのは異例のことと考えられるから、当事者において記憶の存するのが当然と思われるのに、前記渡部証言および証人秋山与一郎の原審第一八回公判期日における供述によっても右特約の存在を知らないというのであって、右借用証書作成の際にかかる特約が存したものとは認め難いのみならず、荏原秀介作成の鑑定書および同人の原審第二一回公判期日における供述等によると、右の記載は借用証書中の他の記載とは異なる時期に記入された疑いが顕著であるところ、その記入の空間や字の大きさからみて後日補充されたものと窺うに足りるから、結局右の証拠をもってしては本件約束手形の振出につき渡部勝蔵の事前の承諾があったとは認められないのである。

してみると、被告人の前記約束手形の作成は作成権限なくしてなされ名義人の意思に反することが明らかであるから、有価証券の偽造たるを免れず、したがって、右と同旨に出た原判決は正当で、なんら所論の如き事実誤認は存しない。その他所論にかんがみ記録を精査しても原判決は証拠の評価に誤りなくなんら事実誤認あるをみないから論旨は理由がない。

三、結論

以上の次第で論旨はいずれも理由がないので刑訴法三九六条により本件控訴は理由なきものとして棄却すべく、主文のとおり判決する。

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